COLABORAジャーナル

田原総一朗×水道橋博士 特別対談(後編) インターネットをうまく使えば、テレビ番組はもっと見られるようになる

番組放送後にも番組を見てもらう大きなチャンスが出てきた。これを活かさない手はない。

―ソーシャルメディアが普及する前までは、新聞の番組欄などの事前情報を元に皆が同じ時間に同じ番組を見る、という時間感覚が流れていたと思うんですが、今はツイッターで「昨日やっていたあの番組が面白かった」という話が出て、そこであらためて注目が集まって番組の価値が上がったりすることがありますよね。

田原

それで言うと「SPIDER」があるよね。「SPIDER」は2週間分のテレビ番組の全てをさまざまな情報と一緒に集積することができる。だから、例えば安倍晋三についてどのコメンテーターがどの番組でどんなコメントを言ったのか、とかそういうことが全部集まるわけだ。

―「SPIDER」は確かにすごく便利なんですけど、ただ「ツイッターで話題になった番組をあとから見たい」という希望をかなえるためだけに、全ての消費者が各自で全ての番組を録画しておく必要があるんでしょうか?

水道橋

なるほどね。クラウドにすればいいじゃん、と。ただ「SPIDER」は録画された番組そのものだけではなく、その番組についた放送データやその番組を見ている視聴者のデータが重要なんです。テレビというと日本中みんなで同じ番組を見ている気がするけど、しかし実際は地域によって全然チャンネルが違うんですよ。『笑っていいとも!』を昼の3時からやっているような地域だってあるわけで。そういう状況であっても、みんなと一緒に番組を楽しんでいる感覚を共有できるように「SPIDER」はシステムを組もうとしているわけなんです。これは相当に先進的なことだと思う。

田原

ソーシャルメディアで話題になった番組を放送後に見たいという希望はもっと増えていくだろうね。今までは番組を生で見てもらうことしか考えていなかったんだろうけど、今後は番組放送後にも番組を見てもらう大きなチャンスが出てきた。これを活かさない手はないよね。

専門家に聞きました 後編

テレビ番組の引用と、公的コンテンツの扱い

般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事小寺信良

個人が権利者の許諾なしに、テレビ番組をネットにアップロードして利用することは、著作権法により多面的に禁じられている。

まず番組を"不特定または多数の人がアクセスできる環境"におかれている何らかのサーバにアップロードすることは、複製権及び送信可能化権の侵害となる。そこから、誰かのリクエストに応じて実際にストリーミングやダウンロードを提供すると、自動公衆送信権の侵害となる。送信可能化権も、自動公衆送信権も、あまり聞きなれないかもしれないが、「公衆送信権」という、不特定または多数の人にコンテンツを提供することをコントロールできる権利の一部として、著作権法に定められているものだ。

またこれらの違法にアップロードされた番組を、違法にアップロードされたファイルと知りながらダウンロードする事は、2010年の著作権法改正によって違法化され、損害賠償などの対象となった(ストリーミングによる視聴は違法化されていない)。さらに2012年の改正では、商業コンテンツを違法にアップロードしたものをダウンロードする行為に対して、刑事罰が付けられる事となった。つづきを読む

この2012年の改正時には、アクセスコントロールを回避してコピーする事も、同時に違法化された。アクセスコントロールとは、コンテンツの再生を制限することで著作物を保護する仕組みで、これまでは複製を制限するコピーコントロールとは区別されてきた。従来からコピープロテクトがかかったものを、技術的手段を用いて回避しコピーすることは違法だったが、この改正により、アクセスコントロールもコピーコントロールと同様の扱いとなった。

例えば日本のテレビ放送は、アクセスコントロールのために暗号化されており、それを解くための"解読鍵"は、テレビなどに挿入するB-CASカードに記録されている。正規の"解読鍵"が使える機器やソフトウェアは、暗号化を解いた状態のコンテンツを取り出せないように、機能が制限されている。

テレビ番組をネットに上げて、それを誰かが視聴するためには、暗号化を解いた状態でサーバに置いておく必要がある。しかし2012年の改正により、この行為が違法となったわけである。

アップロード、ダウンロード、そしてアクセスコントロールを回避した上での複製の3つの規制により、テレビ番組をネットに上げて誰かの役に立てることは、三重に制限されている事になる。

しかしながら現実には、テレビ番組の体を取りながら、公(おおやけ)にすべきコンテンツも存在する。例えば国会中継や政見放送は、パブリックなコンテンツであり、著作権によって保護されるべきものとは言えない。さらには災害時における緊急報道は、できるだけ多くの手段を使って伝播されるべきものであり、著作権法よりも人命を優先すべき人道的な理由が存在する。

実際に昨年12月7日に発生した三陸沖 M7.3の地震では、NHKは暗号化を外して緊急報道を行なった。幸いにして大きな被害はなかったが、もし仮にこれが3.11クラスの大災害であった場合、多くの人はこの報道をYouTubeなどへアップすることを考えるだろう。このとき放送が暗号化されていなければ、この番組は暗号化を解く必要がなくなり、"アクセスコントロールを回避しての複製の禁止"に引っかからないことになる。また技術的にも、番組を取り出すことが容易になる。

それでもまだネットにアップすることは、公衆送信権侵害の可能性は残るが、NHKがその権利を行使しなければよい。このような利用の可能性を明確にするために、緊急報道にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやNHKクリエイティブ・ライブラリーのライセンスなど、他人による複製や公衆送信を自由に認めるライセンスを表示するなどの方法も考えられる。

また3.11の教訓として、テレビ放送によってもたらされる情報は、常に公平さや正確さが担保されるわけではないということを、我々は学んだ。有識者の意見に対して、全く逆の見解が存在する事もある。

テレビによって報道された情報や論説に対し、その真偽を検証を行なったり、さらに論考を深めるような行為は、インターネットを使って行なう事が可能だ。しかしそれには、報道された番組を資料として、正確に引用する必要がある。

引用は、論説や批評などを行なう際に特定の条件を満たせば、著作権者の許諾なく利用する事ができるという、著作権法で認められた正当な利用方法である。これまで書籍や論文のような文字情報分野では広く活用されてきたが、テレビ放送に対しては利用されてこなかった。

これまでもネットには、テレビの情報を元にした評論は多く存在しているが、多くは発言の書き起こしをベースにしている。だがこれでは、どういう文脈で語られた話なのか、どういう表情や態度で語られたのかといったビジュアル的な情報を得ることができないため、その評論の正当性が評価できないというジレンマがある。

具体的な方法論はさらなる議論の余地があるが、テレビからの引用を活用した論説や批評は、情報の価値を正しく判断し、論ずるための手段であり、社会の発展に繋がる多くのメリットがある。高度な情報社会に向けて、テレビ番組の扱い方も、時代に合わせた変化が必要だろうと考える。

Profile

小寺信良
一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事。長年テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年に独立。以降映像機器関連の著作業に転業し、現在に至る。2007年にジャーナリストの津田大介とともに任意団体「インターネット先進ユーザーの会」を発足、2009年に法人化した際に「インターネットユーザー協会」に改称。インターネットにまつわる法規制に対して、ユーザーの利益を損なうことがないよう意見表明を行なっている。

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