COLABORAジャーナル

田原総一朗×水道橋博士 特別対談(前編) インターネットをうまく使えば、テレビ番組はもっと見られるようになる

「ここはオンエアしないで」が通用しなくなる

水道橋

ただ全てが自由に見られればいいわけではなくて。例えば自分がやっている舞台や漫才では、あえて放送禁止用語やタブーを使ったネタをやっています。密室でやるからこそ面白いものだし、演者と観客に共犯関係があるからこそできることなんですね。だからそういったものが勝手に録音や録画をされてインターネットにアップロードされてしまったり、ライブストリーミングで生中継されてしまったりすると大問題が起こるんです。

でもテレビの場合は、まず出演するという段階から公序良俗のルールを守るという前提でやっているわけだから、インターネットで流れても問題ない。基本的にテレビでの発言は閉じたところで、例えばスナックで自分の意見を言っているのとはわけが違うじゃないですか。放映時間に関係なく、世界中のいろんな場所でテレビ番組が見られる、という環境にすべきだと思ってます。

―既に終わってしまいましたが、TOKYO MXの「ゴールデンアワー」という番組ではUSTREAMで放送の同時配信を行っていましたよね。BGMもネットで流しても問題ないものを選んだりしていて、結構先進的でした。

水道橋

USTREAMで放送のロングバージョンを流そうというのは、やっぱり出演者の意識が高いからなんでしょうね。それは出演者本人が望んでいるからできることだと思う。番組のプロデューサーもそういう意図をもってその出演者を起用しているはずだし。ディレクターにもそういう教育をしているんでしょう。ただ、出る側としてはそういう番組には緊張感がありますけどね。編集がないから、失言に気をつけないといけない。これからは基本的にオフレコなんて無くなるのかもしれない。

田原

「ここはオンエアしないで」なんて通用しなくなるという。それは面白いね。出演者の意識が変わればテレビ番組がどんどんネットに進出していくということだろうね。僕は社会にこれだけオフレコの話があふれているからこそ僕の存在意義があるんだと思う。オフレコの話がこの世から無くなったら、僕のことなんてどうでもよくなるわけですから。

水道橋

だからこそ燃えるんでしょうね(笑)。そういう田原さんの行動原理は、僕が舞台で放送禁止用語を使って漫才をすることと通底するものがあるような気もします。

田原

うん。だからこそ、そういう舞台も存在しているんでしょうね。

水道橋

僕も田原さんもそうだと思うんですけど、社会を構成する人たち全員突破者で、改革者で、冒険する人であってほしいとは思っていないんですよね。安穏と変化のない生活が一番で、匿名の中で生き、そのほうが安全だと思う人のことも否定しません。だって皆が口をつぐんでいる中に1%の自分がいて、そこを突破することに自分の存在意義があるし、自分の仕事はそれだと思えるわけだから。でもその1%が存在してはならないって勢力が動くことに関しては反発するんです。

田原総一朗×水道橋博士 特別対談(前編) インターネットをうまく使えば、テレビ番組はもっと見られるようになる

無難じゃ面白くないよ

田原

テレビってね、不自由だから面白いんだよ。テレビはまず総務省の管轄だろ?テレビを管轄する放送法を気にしないといけない。で、スポンサーにも気を使って、視聴率も気にしないといけない。「縛られてばかりで、なんにも自己表現できないじゃないか」とよく言われるんだよね。でもね、僕から言わせればそこで表現するのが面白いわけなんだ。なんでもできるんじゃ面白くない。原っぱで裸踊りしたってつまらないでしょう(笑)。がんじがらめに縛られた中でどう踊るのか、というのがテレビの醍醐味だと思うね。あと、実はテレビに明確なタブーなんてないんですよね。タブーがあると思っている人が見ているから、それをタブーに感じるだけで。

水道橋

歴史的に見てもタブーなんてないですよね。昔からタブーなんてないんだけど、教育の中で「タブーについては扱っていけない」という同調圧力を学歴社会の中に植えつけるからあるように感じるだけで。そういう考えの人に言いたいですけど、「あなたがタブーだと思っていることに前例がないと思いますか?」と。ありますよ! 田原総一朗ひとり見たって、こんだけタブーを破ってるんだから(笑)。

田原

みんな無難になろうとしすぎているね。無難じゃ面白くないよ。著作権にもそういうところがあるでしょう。まずポーンと投げてみて、それがどう作用するか考えたほうがいいんじゃないですか。

水道橋

ただ著作権に関して言えば、今の時代に合っていない法律があるせいで、そういう「まずやってみる」みたいなことに対して萎縮効果みたいなものは出てきているんじゃないですか?

田原

萎縮効果って出てるんですか。

―ネットに違法でアップロードされた動画を、違法と知りながらダウンロードすると警察が逮捕できるような法律が最近できたんです。

水道橋

俺、自分が出た番組がアップロードされたYouTubeのリンクをツイッターで流すんだけど、それも違法なんですか?

―リンクだけなら取りあえず大丈夫ですね。その先にある動画を見ることも大丈夫です。ただしそのリンクを流す行為については現在議論が行われていて、違法にアップロードされたテレビ番組のリンクを紹介するような行為は違法にして、そういった書き込みを削除させようという提案もあります。

田原

もしYouTubeで逮捕なんかされようものなら、テレビで大反対運動を起こしたいね。

水道橋

例えば「2ちゃんねる」なんかものすごく問題はあるけど、「2ちゃんねる」がない世界のほうが絶対怖いじゃない。ああいったカオスな場所がないとダメだって。

田原

ウェブ上の情報が増えることは自体は、全然悪いことだとは思わないけどね。

専門家に聞きました 前編

日本における放送とネットの特殊事情

般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事小寺信良

テレビで放送される番組をインターネットでいつでも視聴できたら、消費者にとっては大変便利であることは言うまでもない。インターネットの歴史の中で、技術的にこれを実現して見せたのはYouTubeで、2006年のことであった。

テクノロジーの進化に対して社会・文化のあり方が影響を受けるのは、ある意味当然の事である。だがテレビ局側の持つ著作権と衝突するこの行為は、もちろん日本でも大きな問題となった。その後、ネットとテレビの関係は、日米で大きく乖離していくこととなる。

その理由はいくつかある。米国でもテレビ番組の削除要請はあるが、ノーティスアンドテイクダウン(Notice & Take Down)の仕組みが上手く機能した。これは、著作権者から侵害の通知があったらコンテンツの公開を停止するという仕組みである。つづきを読む

米国では「デジタルミレニアム著作権法」により、著作権者からの申し立てがあった場合には即刻公開を停止し、アップロードした者の異議申し立てを待つ。

一方日本では「プロバイダ責任制限法」の規定により、著作権者からの申し立てがあると、まず一定期間アップロードした者へ異議申し立てを待ち、所定の期間が過ぎて異議がなければ削除するという流れになっている。このため日本では、著作権侵害コンテンツが公開されている期間が長い事になる。この違いにより、日本においてはノーティスアンドテイクダウンで良しとする風潮が産まれなかった。

別の理由としては、日米の放送システムの違いによるコンテンツの露出度がある。米国の主流なテレビ視聴方法はCATV(ケーブルテレビ)であり、都市圏の1家庭で視聴できるチャンネル数は、200~300チャンネルにも上る。

テレビ番組の供給は、番組と放送局を繋ぐエージェントが仲介となり、1つの番組が多数の局へ売り込まれる。従ってテレビ番組は時間差を付けて多数の放送局で何度も放送されることになり、CATVのポータルサイトで放送スケジュールを調べれば、見たい番組を見逃すということは少ない。従って見逃し需要として、YouTubeが利用されることは少なかった。

一方日本では、地上波も衛星放送も直接受信による無料放送が大半(NHKを除く)であり、都市部で受信できるチャンネルは無料放送に限れば、米国の1/10程度である。またテレビ番組も供給方法にも違いがある。基本的に日本の番組は、放送局主導で制作会社が制作しており、一つの番組はその局および系列でしか放送されない。日本のテレビ番組は、自分で録画予約でもしていなければ1度きりしか見られない、「プレミアムコンテンツ」として制作されている。

この違いが、日本においては過剰なまでにテレビ番組がネットへアップされるという流れを作っていった。当然その分だけ、テレビとネットは摩擦が大きくなる。

加えて日本の著作権法では、映像と音楽に対して早くからコンテンツを通信に流すことを視野にいれた「送信可能化権」および「公衆送信権」が規定されていた。テレビ番組をネットに上げる段階、あるいは上げる準備をする段階で権利侵害が問える構造になっていたこともあり、米国型ともいえる「ノーティスアンドテイクダウン」ではなく、アップロードする行為に違法性を問うという流れが主流になっていった。

テレビ局自身が自らテレビ番組をネットに流す事が難しいのは、主に契約上の問題が大きい。テレビ番組の権利は、テレビ局、制作会社、出演者、音楽家など複数の関係者がそれぞれの権利を保有している。日本のテレビ局は、自局およびネット局で放映することしか想定していなかった。すなわち米国のように、多数の配信先に番組を販売するようなシステムではなかったため、番組の利用許諾を一括で行なえるような権利のまとめ方をする必要がなかったのである。

ただ最近になって、一部の番組ではネット配信を視野に入れた契約に変わってきているとも聞く。また対談中にもあるように、出演者や制作者サイドがネットへのアップロードを積極的に黙認する例もある。

さらには権利関係をよりクリアするために、テレビ番組からスピンアウトしたネット専用のコンテンツを別途制作したり、予告編を放映したりすることも増えてきている。一方映画やアニメ作品は、テレビ番組と違ってそもそも権利許諾の一本化が進んでおり、ネット配信に親和性が高いともいえる。

Profile

小寺信良
一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事。長年テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年に独立。以降映像機器関連の著作業に転業し、現在に至る。2007年にジャーナリストの津田大介とともに任意団体「インターネット先進ユーザーの会」を発足、2009年に法人化した際に「インターネットユーザー協会」に改称。インターネットにまつわる法規制に対して、ユーザーの利益を損なうことがないよう意見表明を行なっている。

あわせて読みたい関連コンテンツ