ネット時代の著作権を考える―COLABORAが目指すものとは?
COLABORAとはどんなサイトか
―CCJP、GLOCOM、そしてMIAU。それぞれの立場を持った団体が集まって運営されるのがこのCOLABORAというサイトなんですが、このサイトを通してどういうことを発信していくのでしょうか?
- 野口
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そもそもこの3団体はこれまでもさまざまなところで一緒に活動を共にしてきたんです。細かなところで意見の違いはありますが、基本的な方向性は一緒なんです。
- 渡辺
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インターネット時代に合わせた著作権のありかたを考えていこうというところですね。
- 野口
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そうですね。今までも各団体がそれぞれ、そして時には共同で提言を発表したり、イベントをやったりしてきました。ただどうしても政策や行政に関わるようなかたちでの主張なので、一般のネットユーザーにはわかりにくいものだったり、伝わりづらいものだったりしたんですね。
- 渡辺
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でも先ほど野口さんや小寺さんがおっしゃったように、著作権は僕たちの非常に身近なところにあるんです。このサイトのキャッチフレーズにあるように、たくさんの人がインターネットやコンピュータを使って情報発信やクリエイティブな活動をするようになりました。だからこそユーザーのみなさんと一緒に著作権のことを考えていきたいんです。難しい話ではなくて、今どのようなことが起きているのか、具体的な事例を追いかけていきながら、身近な問題として著作権を考えていこうというのがこのサイトのコンセプトです。
コンテンツに関わる人達がどうやってネットと接していくか?という問題に悩まされているのは日本だけの問題ではありません。しかし世界的に見ても特に日本は模索の段階が当分続きそうな感じがしています。世界のコンテンツ市場の中で日本のプレゼンスを確立するということを考えたら、ネットがもたらす変化をうまく捕まえて波に乗りチャンスに変化させるという発想が絶対に必要になると思います。そのヒントになるような事例を紹介して一緒に考えていきたいですね。
- 野口
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いままでの活動を通じて感じたことのひとつに、古い時代から続いてきた感覚や、ある種の思い込みみたいなものが、新しいポテンシャルを封じ込めているのではないか?ということがあります。だから、先端事例を紹介することで、新しい発想に触れる場所をつくり、「それなら自分も」「いや、それなら自分はもっとこうして、ああしたら?」というポテンシャルを生み出す材料が提供できたらいいなぁと思います。
また、著作権法にかかわって感じるもうひとつの問題として、一般市民に本当に大きな影響があるのに、どこで何が決まっていっているのかが一般市民の皆様には見えづらい、という問題もあります。たとえば、著作権に関する話題が国際的な通商条約の条項として議論されていることはなかなか知られていません。今ニュースなどでも話題になっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも著作権に関する条項が入っているんです。しかもそこで話し合われているとされている内容は著作権保護期間の延長など、私たちの生活に大きな影響を与えるものです。本来であれば広く議論をして決めるべきことなのに、通商条約の交渉は非公開で行われるという慣例の影になってしまい、議論されないまま通ってしまうことも考えられるんです。このようなみんなに知られていないけど実は大きな影響がある、そういうことをこのサイトを通してうまく皆さんに届けたいという気持ちがありますね。
- 小寺
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これまでの著作権に関する議論は、製作者サイドの「今被害を受けている」とか「今年儲からない」といったような短期的なタームの視点から語られることが多かったと思うんですね。そして「短期的な損が今後何年も積み重なったら、僕ら製作者はどうなるのか?」という焦燥感がベースにあって、その上で「現実に困っている人がいるなら、それを救わなきゃね」という論調が形成され、それに沿って著作権の方向性が決められてきたわけです。
しかし本当は、デジタル技術によって社会の形が変わっていくことを前提にして考えていかないといけないはずです。デジタル技術やインターネットは本当に僕らの生活を便利にしました。デジタルデータは劣化させることなくコピーができるし、インターネットを使ってデータをそのまま送ることができます。しかしデジタル技術の恩恵を僕らがフルに活用できているかというと、実はそうではない現状があります。その現状を生み出している原因のひとつとして、デジタル技術と今の著作権の相性の悪さがあります。デジタル技術って基本的にデータをコピーすることでいろいろなものを効率化する技術なんですが、著作権って英語でcopyrightというように、基本的に情報のコピーを制限するための考え方なんですよね。今はこの相性の悪さを解決するために、一方的にテクノロジーに足枷がつけられています。しかしその著作権による足枷をテクノロジーから外すことで、長期的な視点で見ると現状の手詰まり感のある社会にブレイクスルーを与えられると思うんです。このようにもうちょっと長い目線で考えていけるようなコンテンツがこのサイトから発信できたらいいと思います。
- 野口
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「これが実現できたらどんな世界が広がっているか」というような夢を提示することができたらいいと思いますね。
- 渡辺
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―歩引いた広い目線で「どんな社会になったらいいかな」といったことを著作権の視点から考える材料って、いままで専門家向けのものが多かったと思うんです。ネットと著作権のあり方は世界中の人々の生活やクリエイティブな活動に関わることなので、もっとたくさんの人について知って考えてもらいたいと考えています。非常にチャレンジングなプロジェクトだとは思いますが、このサイトはそれを実験的に試すプラットフォームにしたいと考えています。
―具体的にはどのようなサイトになるのでしょうか?
- 野口
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COLABORAでは「COLABORAジャーナル」というコーナーを中心にサイトを作っていきます。「COLABORAジャーナル」ではテレビや漫画、音楽などの分野で第一線で活躍するみなさんにお話を伺いながら、著作権の観点から見ても面白い先進的で具体的な事例を紹介していきたいと思っています。